学校側を担うことで、教育のあり方を捉え直すいいきっかけに【カタリバ】

女川向学館の教室の様子
 宮城県牡鹿郡女川町に被災した子どもたちを対象にした新しい放課後の学校、コラボ・スクール「女川向学館」が誕生した。この学校の運営をしているのはNPOカタリバ。NPOカタリバは、首都圏を中心に高校生へのキャリア教育を展開している。CANPAN NEWSでは運営スタッフの鶴賀氏、指導にあたる藤中先生に続き、カタリバ代表の今村久美さんに今後必要な支援の形、これからのカタリバの活動について独占インタビューを行なった。

Q コラボ・スクール本開校から一か月と少しが過ぎました。今後の子どもたちの教育についてどのように考えますか。

 構想から1ヶ月で行政との交渉から住民への説明、生徒の募集など急速に立ち上げ2ヶ月経ちました。これまでは、まずは安全安心な運営をすることを目標にしてきましたが、地域にも定着し落ち着いてきた今、これからは子どもたちの未来をどう描き、今子どもたちをどう育てていくべきかということをもう一度立ち止まって考えたいと思っています。高校・大学へ合格する子どもたちを育てたいということをゴールにするのではなく、この地域に新しい産業を生み出す子どもたちを育てなくてはいけないと思っています。壊滅した産業をまさに今の子どもたちが数年後作り出す。そういう子どもたちに育ってもらえるような場にしなければならないと考えます。

 首都圏では、教育系の業者などでは、子どもたちにサバイバル体験をさせるようなビジネスがあります。そんな中で、被災地の子どもたちは実際に"震災"というサバイバル体験をしたわけわけです。逆を返せばそれはすごい教育の機会を得たということともとれます。ご飯も食べられなかった日々、水を汲みに行かなければトイレも流せないという経験をした子たちだからこそ、その経験を強みに変えてあげられる機能をここで担ってあげたいです。

Q 具体的にはどのような分野に力を入れていきたいとお考えでしょうか。

 第一フェーズは、とにかくまず日常を取り戻そうというものでした。先日子どもたちにアンケート(※1)を行なったのですが、勉強をする時間は増え満足度は上々です。第二フェーズとして、今後は技術を導入し、自学自習教材の導入、またICT教育の導入も検討しています。子どもたちにコンピューター・インターネット・モバイル端末などを日常的に使いこなせるような機会を与えてあげたいです。例えば、勉強は苦手だけど、プログラミングやデザイン・映像編集などは楽しんでやれるという子どもたちがいるのならば、そういう環境づくりをしてあげるなど・・・構想中です。現在女川を支えている水産業や原発関係企業以外にも、既存の産業も更に発展させられるよう、技術を身につけられて想像力を拡大できるようなコンテンツを取り入れていきたいと考えています。

Q コラボ・スクールの2校目の予定などはあるのでしょうか。

 ニーズとして、他の被災地の自治体等から設置の希望は届いており、今現地へ行き調査を行なっているところですが、子どもたちがの勉強する場所が取れない地域であること(民間学習塾の流出/失業者増加により学習塾の経費負担ができない)が設置条件です。住居の倒壊率が一番高かったのが女川町(宮城県)で、二番目に東松島(宮城県)、三番目に大槌町(岩手県)、四番目に南三陸町(宮城県)・・・と続きます。ただ現状、決まっているところはありません。

 コラボ・スクールは、被災者を雇用して運営するというモデルです。女川町では3年は続けるという約束のもと行っていますが、この理由は子どもたちの授業料を無料でサービスしているスクールであるため、のさばり続ける訳にはいかない。

 もともと学習塾に通えていた子どもたちがいたわけですから、現在はテストマーケティングの期間としてここの価値を高め、塾に通いたいと思う子どもたちを増やすという状態。そうすることで、ある程度経済も整い場所も確保でき、講師の先生方が塾をもう一回はじめようということになった時、改めてお金を払ってでも来たいという状態に戻しておかなければならないと考えます。

 女川町の復旧には最低3~5年かかると言われています。ですので、それまでの最低3年はやりますという約束で運営を行なっているということです。

Q 今村さんはボランティアの受け入れについてどのようにお考えですか。

 ボランティアは、現地に子どもたちの日常を支える基盤があった上で機能させるべき存在と考えます。コラボスクール以外でも、たくさんの方々が学習指導ボランティアを希望し、被災地に活動をしているそうです。ただ短期で何日かだけ来て去っていくというボランティアが時に子どもたちの片思い状態が生じさせることはあります。いい意味でも悪い意味でも、他人とのコミュニケーションは効果的に気持ちを踊らせますので、それが時に精神衛生上悪影響にもなります。中には、自分の子どもをボランティアさんと絶対話させないという親御さんもいました。

 全ての被災者の方々が、この非日常状態からなんとか日常へ戻していこうとしている中で、いい意味での無責任、悪い意味での無責任なボランティアの方たちの彼らなりの一過性の盛り上げを、親たちがその後どう引き取り、支え続ければいいか分からないという声も聞きました。
女川向学館は、日常を支えつづけられる機関です。だからこそ、自信をもってボランティアを受け入れています。ボランティアにはいい意味での刺激を与えてもらいながら個別フォローをしていただき、日常を支える講師たちと連携を図ります。ボランティアには、事前事後のミーティングと、データベースによる生徒情報の引継ぎをしっかりしていただくことで、無責任にならない関わりをしていただけるよう、現在仕組み化に取り組んでいます。
 とはいえ、本当に求められているのは、たとえ一人でも「長く見続けてくれる人」です。半年間のレベルでおいでいただけるボランティアさんは有償ボランティアとして、食費や活動支援金を支払います。

現在いらっしゃる藤中先生や山内先生などの先生方は、もともと女川町の人気の講師。震災で藤中先生が運営されていた藤中塾がなくなったことは、女川にとってかなりの損失だったようです。子どもたちは藤中先生のことが大好きなんですよ。山内さんは震災後、ご自身の自宅も流出して大変な中、学習塾を無料で開講されました。藤中さんは場所がなくなったので、お寺や避難所で子どもたちを教えていたそうです。子どもたちにとって親や学校の先生以外で、自分が好きな大人がいるということはとてもいいことだと考えます。女川向学館において、外部の私たちだけではできなかったことが、現地で長く住まわれている藤中先生や山内先生のような方がいらっしゃるということでできていることがたくさんあります。彼らの存在は非常に大きいですね。

Q 震災から半年あまりが経ちました。今、世の中の人に気づいてもらいたいことはどんなことでしょう。

 現在、学校を運営するつまり支援される側に回り、毎日たくさんの支援の依頼を頂き大変ありがたい状態です。おかげさまで、現在今年の教材に関しては溢れている状態ですので十分揃いました。うちに限らず、被災地において物資は充足してむしろ余ってしまっている状況をよく目にします。

 つまり物資の寄付や炊き出しなどは、一旦シーズンを終えたのではないでしょうか。支援している側が提供するという緊急支援型ではなく、そこに住んでいる人たちが自分たちの力を向上し、皆さんの力で復興していくのを後ろで支えるような支援がこれからは必要になってくる。ニーズの把握が必要なわけです。それには支援する側がいかに自分たちを俯瞰して見えるか。自分がやりたいことが、実は求められているものではないかもしれないということを、冷静に見られる目が必要なのかもしれません。

 私自身今までカタリバの活動で、本当に顧客に求められていることを提供していたのか、振り返っています。ついついひいき目に偏った評価をしがちなのは、「ボランティアが頑張っている」ということ。ただそれは本当に求められていることなのか。それを考えなければいけないと思っています。

 私たち自身が今とても勉強になっています。学校運営なんてなかなかできないことですからね。チャンスを貰っていると思います。

※1 アンケート

8月30日調べ 向学館に通う生徒中学生96名 アンケート結果

成果の1つ目
【生徒の学習時間】
震災により子どもたちの学習時間は減少していた。特に平日では59.9%にまで落ち込んでいたが、8月現在で被災直後の4月と比べ、平日では270.4%、休日でも160.3%に向上した。被災前の学習時間と比べても、平日で161.9%休日で148.3%にまで増加したといえる。
成果の2つ目
【生徒の満足度】
向学館へ来ている8割以上の生徒が、来ることを楽しいと感じているというデータが取れた。8割以上の生徒が満足を感じているという結果が出た。

※ 女川向学館の授業の様子を写真でもお楽しみください。こちらからどうぞ。

(取材日 2011年9月12日 宮城県牡鹿郡女川町)
(2011年10月 5日 10:30)
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