「忘却」の悲しみを実感した記憶喪失の経験。 漫画のパワーで被災地へ支援したかった【みすこそ】

女子大生漫画家のみすこそさん
『震災を忘れないでほしい』という想いを込め、震災で犠牲になった人々の人生のエピソードを綴ったマンガの単行本「いつか、菜の花畑で~東日本大震災をわすれない~」(2011年9月10日扶桑社から税込1000円 全国書店にて販売中)が出版されてから一週間。女子大生で漫画家のみすこそさんに今の気持ちを独占取材した。

 みすこそさんは都内に住む女子大生。出身は新潟県で慶應義塾大学総合政策学部を卒業後とあるベンチャーキャピタル系企業に一年弱勤務ののち早稲田大学大学院に入学。現在は会計学に勤しむ日々。彼女の趣味は漫画。描く時間を確保できるよう、自分の裁量で仕事ができる会計士を目指して勉強中だ。
彼女がなぜ漫画で想いを伝えようとしたのか。『忘れないでほしい』というその言葉に隠された真実とは・・・。

Q 地震があった3月11日はどこにいましたか。

震災時私は家の中にいました。いわゆる高層マンションの低層階にいたのですが、部屋全体がきしむ音がやけに頭に残っています。それから津波の中継映像や、気仙沼の火災、長野の地震と『日本はどうなってしまうのか』という不安で、しばらくの間はニュースを見てはただ涙を流す日々でした。

Q 震災から何日か経ち、近しい人から言われた「あるひとこと」で漫画を描き始めたんですよね。

『泣いてばかりいないで、涙を流すそのエネルギーを何か別のものに変えてみたらどう?』こういわれたんです。その時はっとしました。そうだ、自分には趣味として描いている漫画があるじゃないかと・・・。
気がついてからは泣きながら漫画のプロットを描き続けていました。

Q 震災のエピソードを漫画でブログに掲載を始めたとたん反響があったそうですね。書籍化されるまでの流れを教えてください。

3月20日ごろからブログに震災に関する漫画の掲載を始めたのですが、twitterなどを通じて友人や興味をもってくれた方から沢山のメッセージをもらい、たまたまその読者の一人である扶桑社の書籍編集者の方から連絡を頂きました。

お会いして話をしているなかで、私は自分にできることをしたいなと書籍化を決めました。ただ、2つだけお願いがあって、本の印税はすべて被災地支援のために寄付をするということ、英語に翻訳して電子書籍化をするということを条件に、書籍化することを決めました。

Q 書籍の中には震災の被害にあった個々人の物語が菜の花畑を含む9つが描かれていますが、これらのストーリーはどのように生まれたものなのでしょうか。

テレビやインターネットの震災報道を元にして、その背後にある人生に想いを馳せて脚色したものもあれば、このような別れをした人がいただろうなと想像して描いた、完全なる創作もあります。自衛隊の人のツイッターやCNNのニュースなど様々な震災報道から漫画へ話を膨らませました。

Q 5月末に岩手県大槌町へボランティアにいかれたそうですね。

被災地を実際に訪ねてみたくなり、バスで10時間かけ泥だしをするボランティアに参加しました。バスから出たとたんに目に着いた瓦礫の山、そして腐敗した有機物と海水の混ざった鼻をつく匂いから湧き出た感情は今でも忘れられませんね。写真で被災地の現状は把握していたつもりだったのですが、いざ目の前に多くの人々の日常が奪われた痕跡を見せつけられると、その現実の重みに呆然としました。もともと畑だった土地に津波で流れ着いた瓦礫を撤去する作業を手伝いましたが、重労働。しかし自分たちが泥だしをした土地には菜の花が植えられ、数年後きれいな黄色のじゅうたんをつくりあげて、少しでも多くの人に笑顔を取り戻してもらいたいとの願いが込められているという話を聞きました。

 大槌町では実際に津波から逃げ無事に助かったというツアーの添乗員さんに出会い、津波がどんなものだったかなど震災時の様子を聞いてきました。『被災地で見たこの現状を伝えてほしい、震災を忘れないでいてほしい』と熱い想いを預かってきました。その想いをこの本の出版をもって果たしたいと思っています。

Q さて、なぜ今回『漫画』で想いを表現しようと考えたのでしょう、その心は?

漫画ってすごいメディアだと思っています。文字で何かを伝えようとしても、興味を持ってくれる人は少ないと思うのですが、漫画であれば絵があることで入りやすい、より沢山の人に読んでもらえるのではないかなと考えました。たとえば新聞は読まないけれどテレビは見るという人が多いのと同じような感じです。それが漫画というメディアを選んだ理由ですね。少々かたいことや興味を持ってもらいにくいこと程漫画で伝えることができるのではないかと。

Q この本に込められた『忘れないでいてほしい』という気持ちについて聞かせてください。

本を出すきっかけになったことでもあるのですが、慶應義塾大学を卒業してから社会人一年目、仕事場まで自転車通勤をしていたのですが、通勤途中に自転車事故に遭いました。深夜雨が降っている中だったのですが、滑って横転し頭を打ちました。そこで私は事故に遭ったその瞬間から、6か月間くらい前までのすべての記憶を無くすという経験をしました。6ヶ月間の間に会った人やその人の名前、仕事もすべて忘れてしまい「忘れる」ということの恐ろしさを実感しました。

「まず自分自身が、この大震災を忘れないでいること」そのために本にしたいという気持ちは強くもっていました。それから自分が記憶を失くした時、周囲の人たちから「みすこそに忘れられてしまった」という言葉を聞くたびに悲しくなり、それを思うと被災地の人の声がなんとなく想像できるんです。記憶は人をつくるものすごい大きなファクター。記憶をとどめさせておきたいという願望についてはすごく理解ができます。

Q 本を発売してから今ちょうど一週間くらいですが、反響などいかがですか。

いろいろな方から一冊ではなく複数買ってくださったという連絡や、本を読んで泣きましたというメッセージを頂き、自分の想いが漫画を通して伝わったんだということを嬉しく感じています。本を出版してみて、人の心に残るものは実体験に基づくストーリーなんだということに気づかされました。

Q この本の印税を全額被災地のために寄付したい、その気持ちを聞かせてください。

出版する時から本の印税を被災地に送ることは決めていました。それと同時に本を買ってくださった皆さんに対して、印税の支援先をきちんとお知らせしたいと考えています。今回の本の中にも描いた震災孤児、被災地の子どもがずっと笑っていられるように、未来を担う子どもたちのために、少しでも支援ができたらと思っています。

とっつきにくい問題を絵を通してわかりやすく伝えること。漫画のもつパワー、メディアとしての漫画のありかたについてたっぷりとお聞きしました。「いつか、菜の花畑で~東日本大震災をわすれない~」は近く英語版で電子書籍化を予定。世界中から被災地の子どもたちのためにエールが送られる日もまもなくです。

(取材日 2011年9月16日 千代田区外神田)

(2011年9月21日 14:00)
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