「普通のくらし」ができる町を目指して【いわきスカイストア】

  店内を彩る地元産の野菜市中心部の空洞化は、おそらくほとんどの地方都市に共通の悩みだ。商業の衰退は、町に住む人々のくらしを脅かしていく。特効薬のないこの問題に対し、福島県最大の都市・いわき市で、ユニークな試みが始まっている。

 面積、人口、ともに福島県最大の都市、いわき市。ここもまた、中心市街地の空洞化問題を抱えている(*1)。
 「生活の安心、安全が崩れてしまって、日常生活もままならない状況です。地方都市では、必ず『活性化』という言葉が出てきますが、活性化しようとは思わない。ただ『普通の町』にしたいだけなんです」
 お年寄りが、コンビニで弁当を買う姿にショックを受けた...と、「いわきスカイストア」委員長の松崎康弘さんは語る。
 「第一次産業も停滞している。いわきの市街地も停滞している。両方を元気にするにはどうしたらいいか、と考えました」
 そこで09年2月から営業をスタートしたのが、「いわきスカイストア」。近郷近在の農林水産品、加工品などを集め、地域のアンテナショップ的なお店を作れば、人も集まり、やがては賑わいも復活するのでは...そんなアイディアから生まれたマーケットである。

 停滞した第一次産業を再生させるには、「六次産業化(*2)」が必要だ、と「農商工連携プロデューサー」の肩書きを持つ松崎さんは話す。農業も、もう産直だけでは厳しくなってきた。加工して売るところまでやらないと、発展にはつながらないんです」
 これまでのJA頼みの農業は行き詰っている。局面を打開しようと各地のJAも頑張ってはいるものの、限界はある。
 だが、いわき周辺には、3~40年前から有機農業に取り組む真剣な生産者が多数存在する。農業高校にも、中学でトップレベルの成績を収めた生徒が何人も進学するようになった。スカイストアでの取り組みを中心に、いわきならではのアドバンテージを生かしていけば、新たな展望が開けていくはずだ。
 「もともといわきは、66年に14もの市町村が合併して生まれた市。いまだに旧市町村同士の仲がいいとはいえない。それを、食べ物という切り口で一つにまとめることができれば、と思っています」

 スカイストアの店舗は、3年前に営業を停止したスーパー「さかいストア」の空き建物を利用。これまで地域活性化運動を担ってきた市民たちが委員会を組織して、運営にあたっている。当初は30あまりの生産者・加工業者が参加していたが、現在は100を突破、さらに日々増加中。姉妹都市である宮崎・延岡、「親子都市(*3)」である秋田・由利本荘の特産品の扱いも始まっている。正に「普通のスーパーには置いてない品揃え」(松崎さん)が、実現しつつある。人気商品である弁当は、近隣のスーパーに模倣されるほどだ。
 とはいえ、消費者にとって魅力的な品揃えを実現するための、水面下の努力はハンパなものではない。
 朝は7時から20キロ離れた市場に赴き、足りないアイテムを集める。さらにこの後、山の中に集荷に出かける。高齢化が進む中、JAに農産物を出せない農家も多く、直接回って仕入れを行うのだ。

 こうして集まった農産物は、新鮮であり、また珍しい品種も多く、顧客の人気も高い。加工品類もアイテムが多く、また安いこともあり、リピーターが増えている。
 店内の一画には「コミュニティ・レストラン」が展開され、食育関係や調理師、あるいは地元の肉屋さんといったユニークな人々が「ワンデー・シェフ」として腕をふるう日もあり、好評を得ている。このほか落語会、民話の会なども催され、町の人々の交流スペースとしても定着しつつある。
 「いわきスカイストア」は、ひとまず順調な船出をしたといえるが、松崎さんには、さらに大きなプランがある。「いわきを、オリーブの名産地にしようと考えています」
 遊休地を利用してオリーブを植える。いわきでも栽培可能なことは確認され、産・学・官を交えた合同プロジェクトも動き出した(*4)。5年後、10年後が楽しみなプランである。

(*1)市街地空洞化...クルマ社会が発展し、郊外にショッピングモールが展開された結果、市街地の中心部がいわゆる「シャッター街」へと化していく、といった現象が特徴的。このページが参考になる。
(*2)六次産業化...農業や水産業などの第一次産業が、食品加工・流通販売も手がけること。一次・二次・三次の足し算により「六次」と名づけられた。
(*3)親子都市...平安末期から江戸初期まで、現在のいわき市を治めていた「岩城氏」が、後に現在の由利本荘市の領主となった縁から、86年に縁組が行われた。
(*4)いわきオリーブプロジェクト...すでに500本の苗木が植えられている。公式サイトはこちら

(取材日 2010年2月9日 福島県いわき市)

(2010年9月27日 00:00)
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