環境変化と食糧不足が文明の崩壊を招く【レスター・ブラウン氏】

東京大学・農学部の弥生講堂にて
 21世紀の人類は、間違いなく危機に瀕している...。環境問題に関する世界的な権威であるレスター・ブラウン氏がこのほど来日、東京大学・弥生講堂でのシンポジウムで、近代文明に対し警鐘を鳴らした。

 シュメールやマヤなどの古代文明は、なぜ滅びたのか? 海水の塩分濃度や土壌の変化が食糧不足を招いたことが原因だった...。
 去る5月28日、レスター・ブラウン氏は、薄暗い東京大学・農学部の弥生講堂の演壇に立ち、聴衆に向って静かに話し始めた。
 株式会社ディ・エフ・エフ(クリック募金のアイディアを広めた。)と東大大学院・農学生命科学研究科の共催によるこのシンポジウムは参加無料とあって、会場はほぼ満杯(ユーストリームにより生中継も行われた)。日ごろから環境に関心の高い聴衆が多く、ブラウン氏の言葉を一言も聞き漏らすまいという熱気が立ち込めている。突然、携帯電話の着信音が鳴り、いきなりビジネスの話を始める不心得者がいても、ブラウン氏はあくまでもにこやかだ。が、そんな温厚な口調で話されるだけに、講演の衝撃的な内容にも説得力が増す。このままのやり方では、人類はもたない。「プランB」が必要なのだ...。

 ブラウン氏は、アメリカ、ニュージャージーの農家に生まれ、ラトガーズ大学で農業を専攻。卒業後、インドに渡り、貧困の中で生活する人々の存在を心に刻む。帰国後は農業に従事し、その後農務省に入省。農業関係のアナリストとして活躍した。
 当時から環境問題への関心が深く、農務省を離れた後、74年に世界で始めての地球環境研究機関、ワールドウオッチ研究所を開く。啓蒙書も数多く執筆し、95年の『誰が中国を養うのか?』は国際的に注目を集めた。
 01年には現在所長を務めるアースポリシー研究所を設立し、04年には、『プランB エコ・エコノミーをめざして』を上梓。従来通りの化石燃料に依存する経済=プランAを続けていては人類に未来はない。一刻も早く、環境と共存する新しいやり方=プランBに移行しなければならない、と説いた。今回の来日は、この『プランB』の最新版の翻訳出版に合わせてのものだ。

 この日のシンポジウムは「フードセキュリティの確立を目指して」と題されたもので、前半がブラウン氏の基調講演。
 内容は、最新刊『プランB4.0 人類文明を救うために』に沿ったもので、21世紀文明の弱点は「食料」かもしれない、と指摘。まず需要側の要因として、世界的な人口増と、さらに穀物を飼料とする肉食を志向する人々が増えていること、また穀物が燃料としても使われるようになったことなどが、食糧供給を不安定にしていることを明らかにした。
 さらに、供給側の不安材料としては、地下水の汲み上げ過ぎなどによる水不足、また気候変動による極地の氷床融解、高山の氷河融解を列挙。農業が危機に瀕している実態を浮き彫りにした。これらの要因が重なって、世界の飢餓人口や、政治的に破綻した国々が増える。さらに食糧不足が深刻な事態を迎えたら、どうなるのか? ...と、ブラウン氏は現行体制の脆弱さを訴え続けた。

 シンポジウムの後半は、小林和彦・東大大学院農学生命科学研究科副科長のコーディネイトによるパネルディスカッション。出席者はブラウン氏のほか、安藤光義(東大大学院准教授)、小山修(国際農林水産業研究センター)、リャン・ウェイ(農林中金総合研究所)の各氏。ディスカッションというよりは各出席者の意見、疑問に対しブラウン氏が回答するという趣きで進められた。ここで話題の中心となったのは「水不足」であり、今後地球上の水資源を公平に利用していくためには、国際的なプログラムが必要であろうとの提言がなされた(シンポジウムの模様は、現在もユーストリームで視聴可能)。
 終了後、最新刊『プランB4.0』のサイン即売会が開催され、出席者たちによる長蛇の列ができたが、ブラウン氏は一人一人に声をかけ、にこやかに応対していた。また、この後は学士会館に場所を移し、懇親会も行われた。

※ 掲載している写真は株式会社ディ・エフ・エフから借りたものです。

(取材日 2010年5月28日 東京都東大前)

(2010年7月 8日 00:00)
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